菊池寛氏の短編『恩を返す話』です。
時は戦国の世、合戦で危うく切り殺されそうになったところをライバルの武将に助けられます。助けられた方はいつまでも助けられたことを負い目に感じ、いつの日かこの恩を返そうと躍起になるのですが、なかなかその日はやってきません。そしてある日、ライバルの武将を切るよう言いつけられるのですが、武将は目の前で切腹し、恩を返すことは永遠にできなくなり、失意に陥る・・・というあらすじです。
勿論、フィクションでしょう。浅田次郎氏の『お腹召しませ』によると、実際の所切腹はそれほど盛んに行われていたわけでは無く、切腹を回避する為、侍の身分を捨てる者も少なくなかったようです。
話を『恩を返す話』に戻しましょう。もし、これが実際に起きた事柄から触発されて書かれたものであったならば、私は侍の心理が全く理解できません。助けてもらったら有難うでいいんです。押しなべて人助けというものは見返りを欲して行うことではないと思います。
ただ、そんな風な読み方をすると、この作品の10分の1も楽しめなくなるでしょう。侍という生業の者がいて、恩義を受けたままにすることを極端に嫌っていたとすれば、このような空想物語も成り立つわけです。