MP3デコーダーの出力波形が汚かったのでノイズ対策をしてみました。波形は驚くほど汚かったのですが、聴感上ノイズは感じられませんでした。しかし、あのノイズに汚れた波形を見て、何とかしたいと強く感じました。
ノイズ対策はヘッドホンアンプ側で行います
本来なら、ノイズ対策はMP3デコーダー側で行うのがスジでしょう。しかし、あの小さな基板上で対策を行うのは困難です。そこで、ヘッドホンアンプ側でのノイズの消込を行うことにしました。
ノイズ測定用ファイルの作成
以前の測定で、240kHz付近のノイズが出力に混じっていることは解っています。しかし、これは飽くまで目分量です。ですから、フィルターの特性を決めるため、ノイズ成分を調べなければいけません。そこで、今回はノイズ成分だけをMP3デコーダーから出力させることにしました。つまり、無音のWAVファイルを使えば、ノイズだけが出てくるはずです。先ずは、Audacityというアプリを使って、無音のWAVファイルを作ります。
Audacityの操作は簡単です。無音WAVファイルは以下の手順でできます。
①トラック→新しく追加→ステレオトラック
この操作で音を入れるためのトラックが作成されます。これが出来たら次のステップで、トラックに音を入れます。
②ジェネレータ→トーン→サイン波
この操作を行うと、パラメータ入力パネルが表示されます。このパネルに周波数、振幅、継続時間を入力します。今回は、無音を作成しますので、振幅は0としました。
③ファイル→書き出し→WAVとして書き出す
これで、ファイルが書き出されます。この時、ファイル名以外のパラメーターは空白でも大丈夫です。
ノイズの測定
作成したWAVファイルをコピーしたSDカードをMP3デコーダーで再生します。そして、出力端子に接続したオシロスコープで波形を観察します。
やはり、ノイズのベースとなる周波数は200kHz付近です。そして、さらに高い周波数成分も含んでいるようです。つまり、200kHz以上の周波数をバッサリと切り捨ててしまえば良さそうです。
ノイズ除去はそんなに甘くない
どうやら、200kHzあたりから上の周波数を切り捨てればよいことは解りました。しかし、ある周波数から上を急峻に切り捨てるのは困難です。今回作ろうとしているのは、CRフィルターという極めて単純なフィルターです。そして、単純である裏側に、性能の悪さが潜んでいます。今回は、負帰還回路の特性を変化させてノイズ対策を行います。つまり、一定の周波数から上の周波数の負帰還量を多くすることで、ノイズを減らそうという算段です。また、今回対策するヘッドホンアンプの電圧増幅部は、非反転型です。非反転型の場合、どれだけ負帰還量を多くしても、ノイズをゼロにはできません。
ノイズ対策回路の検討とシミュレーション
先ずは回路です。
C3のコンデンサを追加することで、高域の負帰還を増やすことでノイズ低減を図ります。検討の初期段階では、カットオフ周波数を100kHzとした計算で容量を決めていました。しかし、LTSpiceのシミュレーション結果と思惑が乖離する結果となっていました。そこで、方針を変えLTSpiceのシミュレーションを繰り返すことで、最適値を探しました。その結果を踏まえて、C3の容量を470pFに決めました。
この回路の周波数特性シミュレーション結果を以下に示します。
30kHzまでの落ち込みは1dB以内に抑えられています。そして、50kHzあたりからは3dB/octでの低減となります。これは、教科書通りです。そして。肝心の200kHzでは9dBの低減となっています。これによりノイズは大体1/8になるはずです。完璧なノイズ対策とは言えませんが、コンデンサを一個追加するだけの簡易な対策です。コスパは結構いいと思います。
ヘッドホンアンプの改造
ノイズ対策の効果が大体わかりましたので、実際にヘッドホンアンプに改造を加えます。今回改造するのは、単電源オペアンプ用に改造した自作ヘッドホンアンプです。
追加するコンデンサーは、積層セラミックコンデンサーです。オーディオ用としては色々と問題があることは知っています。しかし、経験上音質の劣化は巷間言われている程ではありません。もちろん、使い方によって、劣化の度合いが大きくなることはあります。しかし、今回の回路ではその要素はありません。
そして、改造後の姿がコレです。
ノイズ対策の結果
では、ノイズ対策前とノイズ対策後の出力波形を比較してみましょう。先ずは1kHzの正弦波の出力結果です。
ノイズ対策前
ノイズ対策後
完ぺきにノイズを消すことはできていません。しかし、対策前と比較して、圧倒的にノイズが少なくなっていることがわかります。では、次に20kHzの正弦波の出力波形を見てみましょう。
対策前
対策後
やはり、完ぺきにノイズが消えているわけではありません。しかし、効果があることはハッキリとわかります。これ以上の効果を出すのであれば、非反転増幅回路ではなく、反転増幅回路にすべきでしょう。それだけで、ノイズレベルは3dB低くできるはずです。また、今回のフィルターは一次ですが、これを二次化すればさらに効果は高くなるはずです。
ステップ応答も見ておきましょう
コンデンサを一個追加しただけの、簡単なノイズ対策でした。しかし、その効果はしっかりと表れてくれました。そもそも、今回対象としたノイズは、200kHz近辺のノイズでした。これは、明らかに可聴域外の周波数です。したがって、聴感には影響を与えていないはずです。事実、ノイズ対策前の音が悪いと思ったことはありませんでした。しかし、なんとなく気持ち悪いから実験的に対策をしたまでです。
さて、最後にステップ応答も見てみましょう。
どこかで見たような波形ですね。恐らく、あのヘッドホンアンプも可聴域外の信号を取り込まないように対策をしてあるのでしょう。使い方を限定できない市販品であれば、当然の措置ではないかと思います。つまり、あらゆる環境を想定しているプロの設計と経験不足なアマチュアの設計の差なのでしょう。この差が出力波形にも表れるということなのでしょう。