謎トランジスタ使用アンプの性能試験

謎トランジスタ s8050とs8550を使用して、小さなアンプを作りました。謎トランジスタは、どうやら中国製玩具に使われるトランジスタのようです。逆に、それ以外では目にすることの無いトランジスタです。そんな、謎トランジスタがトランジスタ詰め合わせに入っていましたので、疑心暗鬼になりながらも使ってみました。

謎トランジスタは意外と使いやすい

謎トランジスタにもデータシートはあります。データシートを見ると、そこそこ出力はとれます。また、飽和電圧(Vbe-sat.)もそれなりに確保されていますので、リニアな特性を求められる用途にも使えそうです。そこで、謎トランジスタはアンプにも使えるんじゃないか?という思いから、アンプを作ろうと思い立ちました。

謎トランジスタのデータシート(抜粋)

性能はそれなりに確保されていますが、アリエクでの販売価格は安く抑えられています。安くてそこそこ使えるので、玩具などの低価格な商品に使われるのだと思います。

謎トランジスタを使ったヘッドホンアンプの設計

そんな謎トランジスタが手許にあったので、ヘッドホンアンプを作ってみました。回路設計の方針は前回書いた通りです。そして、出来上がったアンプは普通に使えるものでした。そもそも、回路自体は教科書に載っているような、基礎的な要素の組み合わせです。しかも、肝心の増幅率はトランジスタではなく、抵抗値によって決まる回路です。したがって、トランジスタ毎の性能差は無視できる回路です。

謎トランジスタ使用ヘッドホンアンプ回路図

例によって、LTSpiceを使って作成した回路図ですので、抵抗が旧式の表記であったり、可変抵抗器が用意されていなかったりします。しかし、設計と同時にシミュレーションを行うことができる利点があります。もちろん、シミュレーションの結果が、実際の動作と異なることもあります。しかし、明らかなミスは防げます。

謎トランジスタアンプの周波数特性を測ってみる

かなり粗い計測ですが、試験用信号の周波数を変化させながら、出力振幅の変化を測りました。そして、出力振幅が-3dBとなる周波数を探しました。

先ずは、低域側の-3dBポイントです。

謎トランジスタアンプのカットオフ周波数を探るー正弦波9Hz
正弦波9Hz

次に、基準となる1kHzの測定結果です。なお、カットオフ周波数前後は、6dB/Oct.で振幅が変化しますので、12Hzあたりから上の振幅は変化が無く、フラットになります。

謎トランジスタアンプの周波数特性ー正弦波1kHz
正弦波1kHz

カットオフ周波数より上の振幅変化はありません。したがって1kHzと20kHzの振幅に有意な差はありません。

正弦波20kHz
正弦波20kHz

高域側のカットオフは1.8MHzでした。単純な回路ということもあって、AMラジオの送信周波数くらいまで、増幅出来てしまいます。しかし、これはノイズ対策などを考慮しない素人の設計ですね。お恥ずかしいです。

謎トランジスタアンプの周波数特性ー正弦波1.8MHz
正弦波1.8MHz

実際には、もっと多くのポイントで測定をしました。しかし、ここには代表的な4点の測定結果を掲載しました。結果として出力が-3dBとなる周波数は、下が9Hzで、上が1.8MHzとなりました。したがって、謎トランジスタ使用アンプの周波数特性は、9Hz~1.8MHz(+0dB,-3dB)となります。

謎トランジスタアンプのスルーレートを測ってみる

次に、入力信号に対する出力信号の追従性の指標であるスルーレートを測ってみました。急峻に変化する信号を入力し、出力がどの程度正確に追従するかを測ります。

スルーレート測定
スルーレート測定

カーソルを入れて、計測したところ、スルーレートは26V/μsとなりました。それほど悪くない数値です。もちろん、世の中にはこの何桁も上のスルーレートをたたき出すアンプもあります。しかし、オーディオ用であれば1V/μsでも十分実用になります。したがって、26V/μsという数値は、十分合格点だと思います。

クリップ振幅の測定

アンプに、過大な入力が入った場合、一定以上の部分は増幅出来ません。その結果、出力信号に歪みが発生します。この歪の原因がクリップです。実際にクリップした波形を見てみましょう。

クリップした出力波形
クリップした出力波形

波形の上下がつぶれて、平らになってしまっています。このクリップという現象は、アンプの動作電圧によっても変化します。設計電圧12Vを電源として供給した場合、出力振幅が6.7Vを超えるとクリップします。これは、電源電圧の概ね半分です。つまり、このアンプは出力信号の振幅が、電源電圧の半分を超えないように使用しなければいけません。したがって、電源電圧が半分になれば、クリップする振幅も半分になるはずです。

電源電圧6V時のクリップ
電源電圧6V時のクリップ

電源電圧を6Vに下げてみました。すると、クリップした振幅は3.36Vとなりました。つまり実用となる出力振幅は電源電圧の半分です。なお、6V時の出力波形を見ると、マイナス側がプラス側に比較して大きくつぶれています。これは、電圧増幅部のバイアスが不適切なことが原因です。設計どおり、電源電圧12Vで使用する場合には問題ありません。しかし、低い電圧で使用するなら、回路図中のR6とR17を3.3kΩから4.7kΩ~5.1kΩに変更することで緩和されるはずです。

謎トランジスタアンプの最大出力はどのくらいか?

今回の設計では、二段目電圧増幅のアイドル電流を8mAにしました。そして、アイドル電流の半分が電力増幅段に流れると仮定します。そして、電力増幅部に使用したs8050とs8550のhfeを250とすると、電力増幅部の出力電流は1000mAとなります。しかし、これはs8050とs8550の定格を超えています。したがって、出力はs8050データシート記載の625mWとなるはずです。

不備な点の多い性能測定ですけど・・・

今回の性能測定については、ツッコミどころ満載であることは承知しています。そもそも、最大出力なんて測定せずに、データシートの数値そのままです。しかし、ヘッドホンアンプとして必要な性能を満たしていることは解っていただけるかと思います。

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