失敗です – ヘッドホンアンプ動作不良

失敗です。前回組み立てたヘッドホンアンプは失敗でした。しかし、テスト用信号を使用しての、性能試験は良好でした。ところが、実際に音楽ソースにつないで鳴らすと、違和感のある音が出てきました。この違和感の原因を探り、修正を行います。

失敗の原因を探る

違和感の原因は何なのか、先ずはシミュレーターを使って、回路各部の波形を観察しました。その結果、問題の箇所が解りました。

失敗の原因:二段目差動増幅の非反転入力と非反転出力の電圧がオーバーラップしている
NGケース:二段目差動増幅の非反転入力と非反転出力の電圧がオーバーラップしている

上のシミュレーション結果は、二段目差動増幅の非反転入力と非反転出力です。入力信号と出力信号の波形が被っています。つまり、入力信号と出力信号の波形を表す線がオーバーラップしています。この影響により、一段目差動増幅の動作範囲が狭まります。その結果、一段目差動増幅の出力に、性能試験で見過ごした歪みが発生していました。

怪しいのは二段目の差動増幅回路

今回制作したヘドホンアンプでは、あえてマイルールから逸脱した設計にしました。それは、二段目の差動増幅回路です。マイルールでは差動増幅回路のエミッタ抵抗とコレクタ抵抗の比は1:2です。しかし、今回は抵抗の比を1:3としました。恐らくこれが原因でしょう。

抵抗値の比率を実績のある1:2から1:3に変更していた
抵抗値の比率を実績のある1:2から1:3に変更していた

回路自体は、これまで何度も使って、実績があります。ということは、冒険をして変更した二段目の差動増幅回路が怪しいです。そこで、二段目差動増幅回路のエミッタ抵抗とコレクタ抵抗1:2でシミュレーションします。

二段目差動増幅経路のエミッタ抵抗を変更しました
二段目差動増幅経路のエミッタ抵抗を変更しました

エミッタ抵抗を3.3kΩから5.1kΩに変更しました。これで、エミッタ抵抗とコレクタ抵抗の比は実績のある1:2になります。そして、シミュレーションを行いました。

失敗点の修正後のシミュレーション結果:二段目非反転入力と非反転出力はオーバーラップしていない
修正後のシミュレーション結果:二段目非反転入力と非反転出力はオーバーラップしていない

シミュレーションの結果、歪みは無くなりました。やはり、マイルールーからの逸脱が失敗の原因だったようです。

実機の手直し

失敗の原因は判明しました。また、シミュレーションの結果も良好でしたので、実機の修正を行います。

失敗のリカバリーを終えたヘッドホンアンプ
失敗のリカバリーを終えたヘッドホンアンプ

左右チャンネルで二本の抵抗を入れ替えて修正は完了です。

差動増幅回路のエミッタ抵抗とコレクタ抵抗の最適値は?

これまでの経験から、差動増幅回路のエミッタ抵抗とコレクタ抵抗の比は、1:2が最適であるということは解っていました。しかし、同じ1:2でも、例えば10kΩ:20kΩと100kΩ:200kΩでは違った結果になります。では、最適な抵抗値はどのように求めたら良いのでしょうか。今のところ、私はその答えを知りません。しかし、何となく分ったことがことがあります。今回のように差動増幅回路を二段重ねて使う場合は以下のような傾向が見られます。

  1. 一段目差動増幅の抵抗値を低くすると高域側周波数特性が良くなる
  2. 一段目差動増幅の抵抗値を極端に低くすると発振しやすくなる
  3. 二段目差動増幅の抵抗値を一段目より高くすると発振しやすくなる
  4. 二段目差動増幅の抵抗値を低くすると出力オフセットが大きくなる

以上の傾向を踏まえ、差動増幅回路を二段重ねで使用する場合の抵抗値の目安は以下の通りです。

  1. エミッタ抵抗とコレクタ抵抗の比は1:2が好ましい
  2. 二段目差動増幅回路の抵抗値は一段目差動増幅回路の20%程度が好ましい
  3. 一段目差動増幅回路のエミッタ抵抗は100kΩ以上が好ましい

ヘッドホンアンプの最適解

シミュレーションを繰り返し、また、前述の傾向を踏まえて、ヘッドホンアンプに最適な回路を設計しました。

失敗から学んで設計した、ヘッドホンアンプに最適と思われる回路
ヘッドホンアンプに最適と思われる回路

一段目と二段目の差動増幅回路は逆極性にして、トランジスタの非線形性を打ち消す構成としています。また、差動増幅回路の回路定数は、フラットな周波数特性と、低オフセットの両立を図っています。そして、電力増幅回路を駆動するためにダイアモンドバッファを使用しています。このバッファ回路で、ボルテージシフトも行い、電力増幅段のプッシュプル回路をAB級動作させます。

この回路のシミュレーション結果は以下のとおりです。

5mV 1kHz正弦波入力時の出力波形
5mV 1kHz正弦波入力時の出力波形

5mV 1kHzの正弦波を入力した時の出力波形です。出力信号のオフセットは殆どありません。

1mW出力時のFFT
1mW出力時のFFT

シミュレーションに使用したLTSpiceの特性上、奇数次の高調波が大きく出ています。しかし、偶数次の高調波は僅かにしか出ていません。また、ベースのノイズレベルは-120dB以下で、かなり低いレベルとなっています。

周波数特性・位相回転
周波数特性・位相回転

周波数特性(実線)は可聴域でフラットです。20kHzから100kHzあたりで利得の上昇が見られます。しかし、上昇幅は最大でも0.4dBです。利得上昇部分は、可聴域外で、上昇量もわずかです。したがって、これについては、対策は行わず、そのまま受け入れることにします。

位相回転は、800kHzで180°の回転となっています。この時の利得は-16dBです。つまり180°位相回転が起きる時の利得はマイナス(減衰)です。したがって、このアンプは発振しません。

失敗の解析で、長年の謎が解けました

今回は、エミッタ抵抗とコレクタ抵抗の比率を変えたことによる違和感の解消が目的でした。しかし、違和感の原因を探る過程で、差動増幅回路の回路定数の決め方がより鮮明になりました。エミッタ、コレクタの比率が1:2が好ましいことは経験として知っていました。しかし、なぜ1:2なのか、はっきりとはわかっていませんでした。しかし、今回の解析でその理由がはっきりとわかりました。また、一段目と二段目の回路定数の決め方についても、かなり明確になりました。

今回導き出した結論は、素人が経験をもとに、シミュレーションを繰り返して見つけたものです。したがって、使用素子や電源電圧などによって違った結果になることもあるかもしれません。しかし、これまでの経験に照らして、今回たどり着いた結論には納得しています。

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