ギチギチ高密度実装のヘッドホンアンプを作りました。これまで、呆れるほど沢山のヘッドホンアンプをつくりました。そして、そろそろやることもなくなってきた。そこで、キワモノのヘッドホンアンプを作りました。キワモノと言っても、回路構成は差動二段増幅です。目新しさはありません。今回は、部品の実装方法を変えただけです。
ギチギチ高密度実装が好き
電子工作で回路を組む場合、部品をギチギチに詰めた高密度実装が好きです。ユニバーサル基板での制作では、一つの穴に二つの部品を通し、実装密度を上げました。こうやって、実装密度を上げた基板は、ずっしりと重くて好きです。しかし、高密度実装と言っても、スルーホール基板では限界もあります。また、製作が難しくなることも少なくありません。
ギチギチ高密度実装とユニバーサル化を両立
今回は、使用部品の適用範囲を広げる工夫も行いました。トランジスタには三種類のピン配列があります。一つはBCxxx系のトランジスタが採用している、C-B-Eの順の並びです。二つ目はSxxxxや2Nxxxxで採られているE-B-Cの配列です。そして、三つめが2SC1815等で採られているE-C-B配列、通称エクボ配列です。
今回は基板は、基本BCxxxx用に設計しています。しかし、トランジスタを180°反転して実装することで、E-B-C並列のものも使用できます。E-C-B配列のトランジスタの使用は、不可能ではありません。しかし、ピンを交差させての実装になりますので、絶縁処理も必要となり、面倒です。
今回は、基板上にトランジスタの極性(NPNまたはPNP)とピン種別(B,C,E)をシルク印刷しました。こうすることで、私が好んで使う、BCxxx以外の使用も想定しました。
ギチギチ高密度実装のため実装の容易さは犠牲に
密度を高めるため、幅を取るプッシュプル回路とバッファは千鳥配置にしました。これで、回路の幅を200mil(約5mm)縮小しました。
また、トランジスタ周囲にできる隙間に、抵抗器を設置し、スペースを有効利用しました。
ギチギチ高密度実装ヘッドホンアンプの組み立て
毎度のように、ガーバーデータを作成しました。今回も、配線パターンに関してはEasyEDAのオートルート機能を使用しました。しかし、今回のギチギチ実装では、オートルートだけでは難しかったようです。左右チャンネルのパターンが対象とはならず、またVIA(基板表裏間のジャンパー)も多くなりました。手動でパターンを引き直し、VIAはゼロになりました。しかも、信号経路に関しては左右チャンネルでシンメトリーにしました。そして、JLCPCBから送られてきたPCBがこれ↓です。
基板サイズは、42mm×34mmです。かなり小さいです。この基板に部品を植えるとこうなります。
この密度感がたまりません。手に取ると、ずっしりとした重さを感じます。前回作った、差動一段のヘッドホンアンプと比べてみました。
差動増幅が二段に増えているにも関わらず、基板サイズは小さくなっています。一目で実装密度の違いが解ります。この密度感がたまりません。
今回作成したヘッドホンアンプの回路図は以下のとおりです。
設計コンセプト
今回の設計にあたって、電源部分とダイアモンドバッファの見直しをしました。電源部分に関しては、レギュレーション向上のため、ツェナーダイオードとトランジスタを使って精密に分圧する回路も検討しました。しかし、実際に試してみると、ラッチアップが起きなければ、抵抗分圧でも十分な性能が得られることが解りました。また、分圧抵抗は、これまでは2kΩとしていました。しかし、実験を重ねて、更に大きくしても十分な性能が得られることが解りました。したがって、今回は分圧抵抗を4.7kΩとし、消費電力を削減しました。
併せて、ダイアモンドバッファのエミッタ抵抗も変更しました。この抵抗は、後段のプッシュプル回路の動作に影響を与えます。抵抗値を小さくすれば、プッシュプル段の出力は大きくなります。また、ボルテージシフト量が大きくなりますので、クロスオーバー歪みは小さくなります。
しかし、今回は敢えてバッファのエミッタ抵抗を大きくしました。これにより、最大出力を小さくしました。また、ボルテージシフト量が減少するため、クロスオーバー歪みが出やすくなりました。しかし、実験を行い、クロスオーバー歪みが、一段目の差動増幅回路で消されることを確認しました。
以上の変更で消費電力を小さくし、長時間の電池駆動を目指しました。
性能試験:矩形波
組み立てが完了したヘッドホンアンプの性能試験を行いました。性能試験は、ケースへの組み込み前に行いました。
いつものように試験信号を入力し、出力側の波形をします。
先ずは1Hz矩形波です。
DCアンプですから当たり前ですが、低い周波数は得意です。波形に乱れはありません。
次に、1kHz矩形波です。
僅かにオーバーシュートが見られます。しかし、この程度であれば対策は必要ありません。もし、対策を行うのであれば、負帰還抵抗と並行に、5~10pF程度のコンデンサを入れると良いでしょう。
次に20kHz矩形波です。
ここまで周波数を上げると、リンギングが発生していることが解ります。やはり、進相コンデンサによる対策はしたいところです。しかし、位相を乱すコンデンサを信号経路には入れたくありません。ですから、対策は行いません。リンギング部分の山の数から、この部分の周波数はおおよそ320kHzと解ります。しかし、この周波数成分は、可聴域を大きく上回っています。したがって、聴感への影響は無いはずです。また、量的にも接続機器に悪影響を及ぼすことは無いと判断しました。
性能試験:正弦波
正弦波を使っての性能試験を行います。
先ずは1Hzの正弦波です。
次に1kHz正弦波を見てみましょう。
続いて20kHz正弦波です。
1Hz~20kHzまでの正弦波に歪みはなく、ノイズも見られません。いずれも綺麗な波形です。また、振幅の変動も僅かです。したがって、このヘッドホンアンプは、概ねフラットな特性であると言えます。
更に高い周波数の信号を入力し、振幅が最大となる周波数と、カットオフ周波数(-3dBポイント)を探してみます。
最大利得となる周波数は190kHzで、-3dBポイントは330kHzでした。何れも可聴域を大きく超えた周波数です。したがって、フィルターなどの設置は不要と判断しました。
性能試験:スルーレート
スルーレートの測定を行いました。スルーレートとは、信号の立ち上がりの速さを表す数値です。一般的なオーディオ用のアンプであれば、1ミリ秒あたりの電圧変化で表されます。また、オペアンプなどの電子部品の場合には1マイクロ秒あたりの電圧変化で表します。この数値が大きいほど、追従性が高く、入力信号の波形を変えることなく増幅できます。
測定結果は1.16μsあたり1.57Vでした。これを、1μsあたりの数値に換算すると、1.35V/μsとなります。オーディオ用として十分な性能です。
性能試験:リニアリティー
次にリニアリティーの確認を行います。三角波と階段波を入力し、その増幅後の波形を確認します。出力波形の歪みが無ければ、リニアリティーは確保できていると判断できます。
波形は直線で構成され、歪みは見られません。したがって、このアンプは電圧による増幅率の変化が無いと言えます。つまり、リニアリティーは確保できています。
次に階段波です。
残念ですが、階段波の方には比較的大きなオーバーシュートが見られます。これは、正弦波の波形確認で確認したように、190kHz近辺の増幅率上昇が原因です。20kHz矩形波で見られたリンギングでも触れましたが、このオーバーシュートの周波数成分は可聴域外です。したがって、オーバーシュートによる聴感上の影響はありません。したがって、対策は行いません。もし、対策をするなら、5~10pF程度のコンデンサを、負帰還抵抗と並列に設置すると良いでしょう。
実際に聴いてみた感想
今回は、反転入力と非反転入力のグランド抵抗を33kΩに統一しました。これまでは、反転入力端子のグランド抵抗を、場合によっては1kΩ程度まで小さくしていました。しかし、グランド抵抗を不均一にすると、音に違和感を感じることがあります。この違和感は、オシロを当てても原因が分かりません。また、具体的にどのような音の変化があるのか、言葉で表すのも難しいです。
しかし、今回はグランド抵抗を均一にしたため、音に違和感はありません。また、高域側の増幅率が10kHzあたりからわずかに上昇を始め、190kHzでピークを迎えます。これが、良い影響を与えるようです。特に弦楽器の音に艶が乗ります。これがアクセントとなって、非常に心地よい音が出ます。しかし、この独特の艶は聴き疲れするほどの量も強さもありません。本当に心地よい艶です。よいヘッドホンアンプがまた一つ出来上がりました。なお、無信号時の電流値は6~7mA程です。9Vの006P乾電池で三日程度は動作できる計算です。