失敗からのリカバリー:失敗ヘッドホンアンプを改造

失敗からのリカバリーをします。前回作成したヘッドホンアンプは、スルーレートを向上するという目的は果たせました。そして、性能試験の結果も、優秀でした。しかし、一定の条件が揃うと発振するという問題を抱えていました。今回は、発振を抑えるための改造を行います。そして、実用に供することのできるようにします。

失敗からのリカバリー:失敗原因のおさらい

攻めすぎて失敗した原因をおさらいしたいと思います。

原因Ⅰ;一段目差動増幅回路のエミッタ抵抗とコレクタ抵抗を小さくし過ぎた。

スルーレートを向上するためには、差動増幅回路の低インピーダンス化が効きます。当初はエミッタ抵抗とコレクタ抵抗を47kΩにしていました。この時点で、スルーレートは20V/μSを実現できていました。しかし、更なるスルーレート向上のため、エミッタ抵抗、コレクタ抵抗を10kΩにしました。これにより、スルーレートは47V/μSとなりました。しかし、オフセット(出力信号の偏り)が大きく増加してしまいました。

原因Ⅱ:装荷したオフセット抑えるため、負帰還量を極端に大きくしてしまった。

負帰還量を大きくすることで、手っ取り早くオフセットを抑えることができます。しかし、安易に行ったために、特定の条件で、発振を生じるようになりました。特定の条件とは、ボリュームを絞り、小音量とした状態です。ボリュームを絞ると、非反転入力とグランドの抵抗値が小さくなります。すると、負帰還信号が、グランドを通じて、非反転入力に流れ込み、正帰還となります。その結果、発振が起きます。これは盲点でした。ボリュームを絞り込んだ状態を、設計時に考慮できていませんでした。反転入力の接地抵抗が、十分大きければ、この現象は起きなかったはずです。

失敗からのリカバリー:回路設計

リカバリーにあたっては、できるだけ手間を減らしたいので、最小限の変更に留めました。変更点は2点です。

変更点Ⅰ:オフセットを小さくするため、一段目差動増幅回路のエミッタ抵抗、コレクタ抵抗を変更

一段目差動増幅回路のエミッタ抵抗、コレクタ抵抗10kΩはさすがに攻めすぎました。リカバリーのために、これらの抵抗を20kΩに変更します。

変更点Ⅱ:負帰還抵抗、負帰還接地抵抗の変更

攻めすぎて失敗したヘッドホンアンプでは、負帰還抵抗200Ω、接地抵抗47Ωでした。しかし、これは小さすぎましたので、負帰還抵抗5.1kΩ、接地抵抗1kΩに改めました。

以上の変更を反映した回路図がコレです。

失敗からのリカバリー回路
失敗からのリカバリー回路

失敗からのリカバリー:性能試験

改造を完了したヘッドホンアンプの、性能試験を行います。しかし、今回の改造は十分ではありません。経験上、非反転入力端子と反転入力端子の接地抵抗を同一にすることが望ましいです。しかし、今回は応急処置として、最低限の改造に止めました。

性能試験:スルーレート

失敗からのリカバリー:性能試験ースルーレート
スルーレート

測定の結果は、128nSあたり3.98Vの出力電圧変化でした。これをマイクロ秒あたりの数値に換算すると、31V/μSとなります。改造前の数値に比較すると、かなり低い値です。しかし、音声信号の増幅であれば、スルーレートは1V/μSでも十分すぎる値です。したがって、31V/μSというスルーレートは、ヘッドホンアンプには過剰でしょう。

性能試験:正弦波、矩形波の増幅

試験信号として、正弦波と矩形波を入力し、増幅後の波形を観察します。

失敗からのリカバリー:性能試験 1Hz正弦波
1Hz正弦波
失敗からのリカバリー:性能試験 1kHz正弦波
1kHz正弦波
失敗からのリカバリー:性能試験 20kHz正弦波
20kHz正弦波

正弦波の増幅結果は、いずれの周波数でも、波形に乱れはありません。また、ノイズもほとんど無いように見えます。そのほか、振幅も概ね一定です。したがって、可聴周波数範囲で、振幅変動は殆どありません。

失敗からのリカバリー:性能試験 1Hz矩形波
1Hz矩形波
失敗からのリカバリー:性能試験 1kHz矩形波
1kHz矩形波
失敗からのリカバリー:性能試験 20kHz矩形波
20kHz矩形波

矩形波の方も、非常に綺麗な波形が再現されています。前回作成したヘッドホンアンプでは、20kHz矩形波で、オーバーシュートがみられました。しかし、今回の改造後の波形では、オーバーシュートは非常に小さくなっています。

はやり、攻めすぎた設計では、波形の方も乱れが大きくなるようです。

性能試験:三角波、階段波

ここでは、歪みを発見しやすい、三角波と階段波の増幅後の波形を観察します。三角波では、直線で構成されていることを確認します。そして、階段波では、全ての段差が等しく、段に乱れが無いことを確認します。

三角波
三角波
階段波
階段波

三角波、階段波共に見事です。ここまで綺麗な波形が再現されることは、滅多にありません。

性能試験:最大出力振幅

出力波形がつぶれる(クリップする)まで、入力信号を大きくします。これにより、最大出力振幅(出力レールまたは、単にレールとも呼ばれます)を測定します。

性能試験:レール確認
レール測定

最大出力振幅は7.61Vでした。測定時の電源電圧は9Vを勘案すると、結構大きな出力が取り出せます。

性能試験:無信号時、出力オフセット

今回の改造にあたっては、出力オフセットが上昇しない範囲で、負帰還量を減らしました。また、オフセットが出にくいように、一段目差動増幅回路のインピーダンスを高めました。

無信号時出力オフセット(左チャンネル)
無信号時出力オフセット(右チャンネル)

無信号時のオフセットは、かなり小さな値でした。上出来と言って良いでしょう。

失敗からのリカバリーを終えて

実は、今回の改造でも、発振は無くなりませんでした。しかし、発振周波数はMHzオーダーまで上昇しました。また、改造前は2V以上あった振幅も、0.6V程度まで小さくなりました。その他、発振条件もより狭くなり、ボリュームを絞り切った時にだけ発振します。もちろん、ヘッドホンやイヤホンを取り付けた状態では、ボリュームを絞り切っても発振しません。

発振を完ぺきに無くすことはできませんでしたが、実用上問題ないのでこれで良しとします。次は、今回の反省点も踏まえ、発振しないヘッドホンアンプを作りたいと思います。JLCPCBに追加発注したPCBが丁度、デリバリーされました。

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