B級アンプはスイッチング歪みを生じます。これは、トランジスタの特性によって生じます。これは避けるため、A級動作やAB級動作させます。今回は、少し違った方法でB級アンプのスイッチング歪を消してみようと思います。今回は、結果は何となく分かっているのですが、あえて実験をしてみました。
B級アンプって何?
多くのオーディオ信号は、ゼロボルトを中心に、+側とー側に跨って信号が変化します。
オーディオ信号の+側と-側を別々のトランジスタが受け持つ構造のアンプをB級アンプと言います。B級アンプは電力効率が高く、大きな出力を得やすいという特徴があります。
B級アンプにはスイッチング歪みがつきもの
しかし、B級アンプには欠点もあります。これは、トランジスタの性質によるものです。トランジスタは、ゼロボルト付近の信号を増幅させることができないのす。この性質のため、+側を受け持つトランジスタと-側を受け持つトランジスタの受け持ちが切り替わる瞬間に歪みが発生します。
この歪をスイッチング歪とか、クロスオーバー歪みと言います。したがって、B級アンプはオーディオ用途には使われません。通常はAB級アンプという、A級アンプとB級アンプの中間的な性質のアンプが使われます。なお、A級アンプは、電力効率が悪いため、ミリワットオーダーの小電力アンプや趣味性の高い高級アンプに限って使用されます。
オペアンプを使用してスイッチング歪を消す
オペアンプには、非反転入力と反転入力という二つの入力端子があります。そして、非反転入力の信号から、反転入力の信号を引いた差分が出力されます。つまり、B級アンプの出力信号を、オペアンプの反転入力に入力すれば、歪みが消えてくれるはずです。
B級アンプのスイッチング歪みを消す実験回路
早速回路を設計してみました。しかし、既に結果は分かっています。それは、設計に使用したLTSpiceでシミュレーションしたからです。
そして、実際に組んだ回路がこれです。
電力増幅段にバイアス回路がありませんので、部品点数は少なく、非常にスッキリしています。以前作成した、電力増幅段にAB級アンプを使用した回路と比較してみましょう。
AB級アンプの場合、+側と-側のトランジスタが同時に動作する瞬間があります。そして、この瞬間+電源と-電源が短絡状態になります。この時に流れる電流を貫通電流と言います。しかし、この貫通電流が厄介者で、トランジスタが焼損してしまいます。そして、焼損を防止するための保護回路も必要となります。したがって、部品点数が多くなるわけです。
スイッチング歪は消えたのか?
では、実際に動作させてみましょう。先ずは1kHzの正弦波を入力したときの波形です。
図中の赤丸で示した部分に、歪みが見られます。そして、この時のオペアンプの出力波形を見てみましょう。
オペアンプの出力波形を見ると、信号がゼロボルトを超える部分で上下に引き延ばされていることが解ります。これにより、トランジスタの不感部分をスキップしていることが解ります。しかし、スイッチング歪を完全になくすことはできていません。その原因は信号の遅れではないかと思います。上の図でもゼロボルトを跨ぐ信号が垂直ではなく、わずかに斜めになっていることが解ります。そして、この遅れが原因で、スイッチング歪みが消しきれないのだと思います。そして、本当に信号の遅れが原因であれば、周波数が高くなれば、残留する歪みは更に大きくなるはずです。ちょっと見てみましょう。
やはり、周波数を高くすると、残留歪みは顕著になります。
素直にAB級アンプにすべし
今回は、オペアンプでB級アンプのスイッチング歪を完全に消すことはできないことを実験し、備忘録的に残しました。そして、結局は下手な考えは捨て、オーソドックスな手法が有効であることを再確認しました。なお、この歪は、しっかりと聞き取ることのできるレベルで音を濁します。