ダンピングファクターとバイアス

ダンピングファクターを大きくすると、音が良くなるらしい。これは、理屈としては解るような気がします。しかし、ダンピングファクターは、音質云々よりも、負荷耐性の向上に効果があるはずです。これは、疑問の余地がありません。それは、出力インピーダンスが高くなるほど、損失が多くなるからです。

そもそもダンピングファクターとは?

ダンピングファクターは、スピーカーの公称インピーダンスをアンプの出力インピーダンスで割った値です。ダンピングファクターを高めると、音が良くなるという意見があります。しかし、音が良くなる明確な説明を見つけることはできませんでした。逆に、ダンピングファクターが程々の方が音が良いとしている方がいらっしゃいます。そして、実際にダンピングファクターを変えることによる変化を計測されている方もいらっしゃいます。例えば、真空管アンプは比較的ダンピングファクターが小さめです。そして、真空管アンプの音を好む方もいらっしゃいます。これは、ダンピングファクターが小さい方が、音がよいということの証左かも知れません。

ヘッドホンアンプのダンピングファクター

これまで作ってきたヘッドホンアンプはダンピングファクターが低めです。その原因は、電力増幅段に使用したプッシュプル増幅回路で生ずる貫通電流対策です。貫通電流によるトランジスタの焼損を防ぐため、抵抗を設置していました。

トランジスタ焼損防止用抵抗
トランジスタ焼損防止用抵抗

上の回路図中のR7とR8が保護用の抵抗です。そして、ヘッドホンの公称インピーダンスが32Ωの時のダンピングファクターは3.2となります。ただし、トランジスタそのもののインピーダンスや、ケーブル類のインピーダンスは考慮していません。

保護用の抵抗を無くしたい

保護用の抵抗を無くすには、+側のトランジスタと、-側トランジスタが同時にONにならなければよいのです。しかし、実際にはこれがかなり難しいです。バイアスを小さくすればスイッチング歪を生じます。しかし、バイアスが過剰であれば貫通電流が発生します。

理想は、バイアスがトランジスタのVbe(ベース – エミッタ間電圧)と一致することです。そして、ダイオード使用のバイアス回路は、トランジスタのVbeとダイオードのVfが等しいことを利用しています。しかし、ダイオードのVfは、ダイオードに流す電流によって変化します。さらに、温度によっても変化します。この変化がトランジスタと差を生じた場合、歪みや貫通電流を生じます。そのため、安全策として保護抵抗を入れるわけです。

バイアス回路の検討

そこで、バイアス回路の変更を検討してみました。ここでは、電力増幅用のトランジスタと同一のトランジスタをバイアス回路に使います。これで、ダイオードとトランジスタの特性の違いを無くせるはずです。

バイアス回路比較検討
バイアス回路比較検討

検討用の回路図は上図の通りです。この回路のシミュレーション結果は、BIAS1の回路が最もよい結果となりました。しかし、バイアスにトランジスタを二つも使うのはもったいない感じです。そこで、先ずは一番右側のBIAS3の回路を採用することにしました。

回路設計

これまでの、ダイオードを使ったバイアス回路を、トランジスタを使った回路に置き換えました。計算上は、貫通電流もスイッチング歪みも発生しないはずです。しかし、特性のばらつきなども考慮して、保険として1Ωの抵抗を出力側に入れています。また、バイアスがプラス側にオフセットします。これによる出力のオフセットは、電力増幅段への負帰還で消し込む構造としました。

バイアス回路見直し
バイアス回路見直し

ヘッドホンアンプ制作

新設計の回路をユニバーサル基板上に組んでみました。では、要所ごとに見てみましょう。

電圧増幅部
電圧増幅部

電圧増幅にはオペアンプtl072を使用しました。なお、このオペアンプにはオフセットをキャンセルする働きも持たせています。

バイアス回路
バイアス回路

バイアス回路は電力増幅段でも使用しているss8050×2個と、8個の抵抗で構成しています。

電力増幅部
電力増幅部

電力増幅部はss8050とss8550のコンプリペアを使用しました。なお、この回路では計算上は貫通電流は生じません。しかし、トランジスタの個体差を考慮して、保険として1Ωの保護抵抗を設けています。また、トランジスタの熱結合をしていませんので、温度によるVbe変化で生ずる貫通電流対策も兼ねています。

動作試験

出来上がったアンプに信号を入力して、動作確認をしました。先ずは、正弦波です。

10Hz正弦波
10Hz正弦波
100Hz正弦波
100Hz正弦波
1kHz正弦波
1kHz正弦波
10kHz正弦波
10kHz正弦波
20kHz正弦波
20kHz正弦波
100kHz正弦波
100kHz正弦波

出力が20mV程オフセットしている以外は問題なさそうです。スイッチング歪はありません。また、周波数による出力の増減も無視できる程度しかありません。

次に矩形波の結果も見てみましょう。

10Hz矩形波
10Hz矩形波
100Hz矩形波
100Hz矩形波
1kHz矩形波
1kHz矩形波
10kHz矩形波
10kHz矩形波
20kHz矩形波
20kHz矩形波
100kHz矩形波
100kHz矩形波

矩形波の方も、やはりオフセットが気になります。しかし、波形の方は問題ありません。

100kHzで、肩の部分が丸くなっているのは、電圧増幅部にJFET入力のオペアンプを使用しているためです。なお、BJT入力のオペアンプの場合には、肩の部分にオーバーシュートが発生する傾向が見られます。

バイアス見直しでダンピングファクターを上げてみた

バイアス回路を見直すことで、回路の安定性を上げました。これにより、保護抵抗の値を小さくすることができました。そのため、当初3.2だったダンピングファクターは一桁上がって32となりました。音質の変化はさておき、出力インピーダンスが下がりましたので、高い負荷への耐性は上がったはずです。

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