究極のバイアス回路でダンピングファクターをマシマシ

今回は、究極のバイアス回路でオフセットゼロ、スイッチング歪ゼロ、貫通電流ゼロにします。前回はダンピングファクターを下げるためにバイアス回路の見直しを行いました。しかし、問題点もありました。それは、出力のオフセットです。負帰還によるオフセットのキャンセルが不十分で、数十mV程度出てしまいました。また、安全を見込んで設置した保護抵抗により、計算上のダンピングファクターはそれほど上がりませんでした。今回は、贅を尽くした究極のバイアス回路(笑)で、オフセット、スイッチング歪、貫通電流を無くします。そして、ダンピングファクターをMAXマシマシにします。

究極のバイアス回路でオフセットを無くす

前回作ったヘッドホンアンプのバイアス回路は、バイアスにトランジスタを一つだけ使いました。

究極のバイアス回路はこれ!(左から二番目、BIAS!の回路)
バイアス回路の検討

しかし、この回路(上の図の一番右側の回路)では電圧増幅からの信号に、Vbe×2分プラス側をかさ上げします。しかし、マイナス側は電圧増幅部の出力電圧そのままです。つまり信号がプラス側にオフセットしてしまいます。このオフセット分は、電圧増幅部でキャンセルされるはずでした。しかし、十分にキャンセルされず、出力は30mVほどオフセットされていました。

今回はオフセットを無くすため、上図のBIAS1の回路を採用します。この回路では、プラス側バイアスは、電力増幅のプラス側トランジスタと同一とします。そして、マイナス側バイアスも、マイナス側電力増幅トランジスタと同じものを使用します。これにより、バイアスとVbeを完全に一致させます。

バイアス回路と電力増幅回路の温度差も考慮する

今回は、バイアス回路に電力増幅回路と同じトランジスタを使用して、バイアスとVbeを一致させます。しかし、トランジスタのVbeは温度によって変化します。温度が上昇するとVbeは減少します。バイアス回路には常に一定の電流しか流れません。しかし、電力増幅回路に流れる電流は、出力信号に応じて変化します。当然、電流が大きくなれば、トランジスタは発熱します。これにより、Vbeは変化します。温度上昇によりVbeは減少し、貫通電流が発生します。そして、最悪の場合トランジスタは焼損します。

焼損を防ぐため、バイアス回路のトランジスタのVbeを電力増幅トランジスタと一致させる必要があります。そこで、バイアス回路と電力増幅回路のトランジスタの温度を同一にします。これを熱結合といいます。熱結合により、バイアス用トランジスタのVbeと電力増幅用トランジスタのVbeを一致させます。一般的には、バイアス回路と電力増幅回路を同一のヒートシンクに固定します。しかし、今回はバイアス回路と電力増幅回路のトランジスタを密着させ、接着剤で固めることで、簡易な熱結合をします。

究極のバイアス回路搭載ヘッドホンアンプの設計

究極のバイアス回路搭載ヘッドホンアンプ回路図
保護抵抗なしヘッドホンアンプ回路図

例によって、信号経路にコンデンサは入れていません。これは、私の拘りです。そして、今回の目玉であるバイアス回路ですが、電力増幅回路で使用するトランジスタと同じトランジスタを使用します。そして、電力増幅回路の出力側の保護抵抗をなくしました。これにより、電力増幅回路のエミッタ端子がそのまま出力になります。

作成

この回路は、使用するトランジスタのVbeが揃っていないと、狙った性能がでません。また、最悪の場合トランジスタの過熱による発煙の恐れがあります。そのため、事前にVbeを測ったのですが、個体差はほとんどありませんでした。しかし、hFE(増幅率)はそこそこ差がありました。そこで、hFEの値が、±5以内になるようトランジスタを選定しました。また、電圧増幅には安定と信頼のオペアンプ、njm4558を使用しました。

出来上がったヘッドホンアンプがこれです。

究極のバイアス回路搭載のヘッドホンアンプ
出来上がったヘッドホンアンプ
究極のバイアス回路は熱結合が必要
回路部分拡大

上の画像は回路部分を拡大したものです。トランジスタは熱結合のため、密着させて、接着剤で隙間を埋めています。また、回路保護のための部品を省略できました。これにより、前回作成したヘッドホンアンプと比較して、部品点数は減っています。

性能確認

何時ものように、テスト用信号を入れて、スイッチング歪やオフセット量の確認をしました。

10Hz正弦波
10Hz正弦波
1kHz正弦波
1kHz正弦波
10kHz正弦波
10kHz正弦波
100kHz正弦波
100kHz正弦波

測定は、10Hz,1kHz,10kHz,100kHzの4つの周波数で行いました。そして、全ての周波数において、オフセットはありませんでした。また、振幅の変動も1kHzだけ10mV小さいだけでした。これは、測定誤差と考えてよいでしょう。さらに、スイッチング歪やノイズも見られませんでした。

次に、矩形波でのステップ応答も持て見ましょう。

10Hz矩形波
10Hz矩形波
1kHz矩形波
1kHz矩形波
10kHz矩形波
10kHz矩形波
100kHz矩形波
100kHz矩形波

矩形波の方は、若干ですがオフセットがみられました。しかし、その量は最大でも7mV程で、十分無視できる値であると思います。また、振幅の変動も無視できる程度しかありません。なお、電圧増幅に使用したオペアンプnjm4558は、スルーレートがあまり高くありませんので、100kHz矩形波の立ち上がり立下りが垂直ではなく、斜めになっていることが解ります。しかし、これは100kHzまで周波数を上げないと顕著になりません。したがって、可聴域には全く影響は無いと思います。

肝心のダンピングファクターは?

今回は、ダンピングファクターができるだけ大きくなるように、回路設計をしました。そこで、無負荷時とヘッドホンを接続したときの出力電圧の差を測定し、算出しようとしました。しかし、手持ちのヘッドホンで最もインピーダンスの低い16Ωのヘッドホンを接続しても、電圧変化はありませんでした。したがって、今回作成したヘッドホンアンプのダンピングファクターは計測不能でした。

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