カレントミラー負荷差動増幅回路を使用したヘッドホンアンプを作りました。カレントミラー負荷差動増幅を使用し、歪み低減を図ります。また、バッファ段のエミッタフォロワにも改良を加えました。
改良の目的
改良の目的は、以下の通りです。
- 消費電力の削減
- 低ひずみ化
- 部品点数の削減
これまで作成したものも、それほど多くの電力を消費していたわけではありません。しかし、電池駆動での使用を考慮すると、消費電力は少ないに越したことはありません。また、カレントミラー負荷差動増幅を使用し、非反転入力部と反転入力部の電流差によって生じるひずみの削減をします。
部品点数の削減は、バッファとして動作する、エミッタフォロワ部分で行います。
カレントミラー負荷差動増幅による変更点
先ずは二つのトランジスタ、Q8とQ4を抵抗に換えて設置しました。Q8とQ4はカレントミラーとなっています。これにより、入力信号が無い場合のアイドル電流を下げました。また、非反転入力側と反転入力側のアンバランスによって生じるひずみを抑えます。
次に、Q9に電力を供給するブリーダー抵抗を廃しました。これによりQ9への電力供給はQ5が行うこととなります。Q9に供給するはずの電力がQ3で消費されないように、R2の抵抗値を高くしました。
その他、Q1とQ2の電位はQ8とQ4によって決まります。したがって、Reの抵抗値は重要ではなくなりました。そこで、Reはぐっと大きくして220kΩとしました。これによりCMRR(同相除去比)は向上し、出力オフセットの減少が見込まれます。
カレントミラー負荷差動増幅使用ヘッドホンアンプの回路設計
今回の改良で、設計はかなり楽になりました。特に入力を受けるトランジスタの電位の計算が不要になりました。その一方で、バイアス回路の抵抗値がプラス側とマイナス側で異なることに違和感を覚えます。しかし、この部分も1:2に近い比率にしておけば、失敗は無いと思います。
組み立て
カレントミラー負荷差動増幅は、部品点数が少ないので、組み立ては難しくありません。中央の電源ラインを境に、部品配置は対象となりますので、間違いにも気づきやすいと思います。
カレントミラー負荷差動増幅性能試験1,矩形波の増幅
矩形波を入力したときの、出力波形を観察します。波形の立ち上がりが急峻で、直線的であることを確認します。また、波形の角の部分に発生する、オーバーシュートやリンギングが小さいほど優秀なアンプです。
先ずは、1Hzを見てみましょう。
今回作成したヘッドホンアンプはDCアンプです。したがって、DCから増幅出来ます。ですから、1Hzという、大変低い周波数でも、正しく増幅出来ています。波形に乱れは無く、大変綺麗です。
次に、1kHz矩形波の結果を見てみましょう。
信号の立ち上がり部分に、わずかにオーバーシュートが見られます。しかし、これは無視できる範囲と思います。大きな乱れは無く、きれいな波形だと思います。
次は20kHzです。
本来垂直である部分が、斜めになっています。つまり、信号の立ち上がりと立下りに遅れが出ているということになります。では。周波数をぐっと高くしてみましょう。
思い切って、周波数を100kHzまで上げてみました。もちろん可聴範囲外ではありますが、立ち上がり、立下りに遅れが目立ちます。このヘッドホンアンプ、SR(スルーレート)はあまりよくないかも知れません。SRの測定は後程行います。
性能試験2,正弦波の増幅
今度は正弦波です。先ずは1Hzから見てみましょう。
悪くないと思います。振幅はP-Pで2.5Vに調整しました。周波数を上げながら、振幅が-3dBになるポイントも探してみたいと思います。
1kHzまで周波数を上げました。振幅に変化はありません。また、波形にも乱れはありません。
20kHzまで周波数を上げました。振幅にほとんど変化はありませんので、この可聴域はしっかりカバーできています。ここからは可聴域外ですが、どの程度の周波数まで、ゲインが保たれるのは実験的に見ていきたいと思います。
性能試験3,-3dBポイントを見つける
ここから先は、可聴範囲外の周波数です。ここから先は、このヘッドホンアンプの周波数特性を探るための試験で、あまり意味はありません。しかし、周波数特性は知っておきたいものです。一般的には、出力が-3dBとなるポイントを、そのアンプの限界点とするようですので、それに倣って測定を続けます。
周波数を100kHzまで上げましたが、振幅、波形ともに変化は見られません。
周波数を200kHzまで上げました。少し振幅が減り始めたようです。
-3dBは概ね70%です。つまり、振幅が70%まで減少したポイントです。設定した振幅はP-Pで2.5Vですので、-3db時の振幅は1.7Vとなります。したがって、もっと高い周波数まで行けそうです。
一気に周波数を500kHzまで上げてみました。振幅は1.88Vありますので、-3dBポイントはもう少し上にありそうです。しかし、波形が怪しくなってきましたので、500kHzが上限ということで良いでしょう。このヘッドホンアンプの周波数特性は DC~500kHz(+0,-3dB)という感じでしょう。中々の性能だと思います。
性能試験4,SRと直線性
矩形波を増幅した時の波形を性能試験1で見ました。しかし、20kHzまで周波数を上げた時に、出力信号に遅れがみられるようになりました。どうやら、SR(スルーレート=Slew Rate)があまりよくないようです。では、実際にSRがどの程度なのか、測ってみましょう。
SRは、オペアンプなどのデバイスでは1マイクロ秒あたり出力が何ボルト変化するのかで表します。上図の波形は200nSあたり796mVの変化であることが解ります。これをマイクロ秒あたりに変換すると、1.99V/μSとなります。これは、オペアンプNJM4559とほぼ同じ値です。したがって、掃いて捨てる程悪い値ではありません。しかし、近代的なオペアンプには歯が立たない値です。
次に、三角波を増幅して、直線性を見てみようと思います。
三角波はしっかりと直線で構成され、頂点もしっかりと角が立っており、鈍っていません。従って、信号レベルによる増幅度の変化が無いことが解ります。
次に階段波の増幅をしてみます。階段の段差が均一になっているか否かで、歪みの有無を確認します。
これに関しては、問題は見られません。
消費電力
なお、これらの測定を行ったときの電源電圧は12Vでした。また、電流値は15mAでした。改良前の電流値は20mA程でしたので、かなりの改善となりました。しかし、今回のヘッドホンアンプでは、抵抗分圧で±電源を作っています。この、抵抗分圧回路が6mA程消費します。したがって、アンプ自体の消費電流は9mA程度です。これは安心して、電池駆動させられる値です。