入力インピーダンス最適化 – これで本当に最後

入力インピーダンス最適化をヘッドホンアンプに施しました。これまで沢山のヘッドホンアンプを作ってきました。しかし、このスタイルでのヘッドホンアンプ作りは最後にします。

ヘッドホンアンプの入力インピーダンス

最初のころは、入力インピーダンスを1kΩ程度にしていました。しかし、入力インピーダンスが低いと、ボリューム位置での音質変化に気づきました。そして、民生品の入力インピーダンスが50kΩ程度であるという情報を得ました。そして、それ以降は入力インピーダンスを高く設計しました。しかし、入力インピーダンスの高いヘッドホンアンプの音に違和感を感じていました。入力インピーダンスが高いアンプは、高音が強調されたように聞こえました。しかし、慣れてくると少しラウドネスが効いたような音も悪くないと感じてきました。

高すぎる入力インピーダンスの弊害

最終的には、入力インピーダンスを100kΩまで高めてみました。しかし、やりすぎは良くないようです。それまで作ってきたヘッドホンアンプでは感じることの無かったヒスノイズが出るようになりました。しかし、そのレベルは低いものです。それでも、全くの無音から音が立ち上がってくる感動を味わうことはできません。

その他に、外来ノイズに弱くなるという欠点もあります。特に、Wi-Fiルーターの影響を受けてしまうのには困りました。

ベストな入力インピーダンス

入力インピーダンスは低すぎても高すぎても良くないようです。そこで、回路シミュレーターと試作を繰り返し、最適な入力インピーダンスを探りました。そして、私なりの結論が33kΩです。この数値は、以下の三つの基準で探しました。

  • 無音時にヒスノイズが感じられない
  • ボリューム位置による音質変化が無い
  • 外来ノイズを拾いにくい

位相補償は省略

コンデンサによる位相補償をするか否かは、かなり迷いました。個人的には信号経路にコンデンサを置きたくありません。しかし、位相補償によって得られるフラットな周波数特性にも捨てがたい魅力はあります。しかし、スルーレートは低くなりますし、波形も鈍ります。そこで、今回は敢えて位相補償はせず、オーバーシュートで生じる歪も味として受け取ることにしました。

回路設計

これまで、結構な数のヘッドホンアンプを作ってきました、したがって、勘所は掴んでいます。私なりの型が出来上がってきました。差動増幅二段+ダイアモンドバッファ+プッシュプル電力増幅が私の型です。一段目の差動増幅は、オーソドックスな抵抗負荷です。そして、二段目は、一段目と極性を逆にしたカレントミラー負荷差動増幅回路です。

上記回路図で赤丸の部分が、今回の要点です。非反転入力と反転入力端子を33kΩの抵抗でグランドに落としています。入力インピーダンスは33kΩとなります。これに合わせて、負帰還抵抗を200kΩにしました。増幅率は7倍(16.9dB)となります。この増幅率は、ヘッドホンアンプとして使いやすい15~20dBの丁度真ん中あたりになります。なお、差動増幅二段目のコモングランド抵抗は、これまでより少し小さい68kΩとしました。これは、シミュレーションの結果、出力オフセットが最も小さくなる値でした。

シミュレーション結果

先ずは、正弦波でのシミュレーションをしてみました。

シミュレーションではありますが、0mVを境に+側-側共に同一の振れ幅です。したがって、オフセットは狙い通り小さくなっています。次に、周波数特性のシミュレーションをしてみした。

やはり、位相補償を行っていないため、周波数が上がるにつれ、利得が上昇しています。利得の上昇は6kHzあたりから始まり、300kHzあたりでピークになります。上昇量は最大で1dBです。したがって、周波数が高いこともあわせて、その差を聞き取ることはできないでしょう。

シミュレーションではありますが、位相補償無しでも実用になる性能が得られました。

組み立て

いつものように、ユニバーサル基板を使って、ヘッドホンアンプを組み立てていきます。使用トランジスタは、例によってBC547とBC557です。このトランジスタ、安くて入手性も良いのですが、ヘッドホンアンプ1台あたり20個も使います。したがって、結構な頻度で発注しないと追いつきません。

そして、出来上がったのがこれです。

入力インピーダンスを最適化したヘッドホンアンプ
完成したヘッドホンアンプ

入力インピーダンス最適化後の性能確認

先ずは、矩形波を入力した時の増幅後の波形を見てみます。

矩形波1Hz
矩形波1Hz

DCアンプですから、低い周波数は得意です。波形を見ても、全く歪みがありません。見事です。

矩形波1kHz
矩形波1kHz

僅かですが、オーバーシュートが見られます。

矩形波20kHz
矩形波20kHz

1kHzのときに見られたオーバーシュートは、20kHzではリンギングとして観察できます。ただ、歪み量としてはそれほど大きくありませんので聴感への影響は僅かでしょう。

次に正弦波の増幅結果を見てみます。

正弦波1Hz
正弦波1Hz
正弦波1kHz
正弦波1kHz

何れも綺麗な波形です。振幅も1Hzとほぼ同一です。

正弦波20kHz
正弦波20kHz

矩形波に続き、正弦波の結果です。結果には全く問題ありません。オフセットもありませんし、波形も綺麗です。

次に、増幅率のピークを探ってみました。

振幅のピークは210kHzでした
振幅のピークは210kHzでした

振幅のピークは210kHzでした。この結果はシミュレーションでの結果より、少し低い周波数です。しかし、これは誤差の範囲だと思います。逆に、シミュレーションは、実際の結果とかなり近いと言えるでしょう。

次にカットオフ周波数(増幅率が3dB下がる周波数)を探ってみました。

-3dBポイント
-3dBポイント

正弦波に関しては、可聴域は問題ありません。また、300kHzあたりまでは、増幅出来ます。したがって、ヘッドホンアンプとしての目的は十分果たせるはずです。

直線性とスルーレートの確認

信号レベルによって増幅率に変化があるか否かを確認するため、三角波と階段波の増幅結果を見てみましょう。

三角波増幅結果
入力インピーダンス最適化後の直線性確認
三角波増幅結果
階段波増幅結果
入力インピーダンス最適化後の直線性確認
階段波増幅結果

三角波の方は、三角形を構成するすべての線に歪みはありません。したがって、信号レベルによる増幅率の変動は見られません。また、階段波の方では、オーバーシュートが見られますが、全ての段差は均一です。したがって、直線性に問題はなさそうです。

最後にスルーレートの計測をしてみました。

入力インピーダンス最適化でスルーレートはどう変わるのか
スルーレート測定結果

測定の結果、2.7μSあたりの電圧変化量は11.6Vでした。これを1μSあたりに換算すると、4.29V/μSとなります。この数値はNJM4580の5V/μSに若干劣る程度です。したがって、ヘッドホンアンプとしてはかなり頑張った性能であると言えます。

実際に鳴らしてみて

電源を入れた瞬間のポップノイズが非常に小さいです。ポップノイズは、不快ですし、接続したイヤホンやヘッドホンに悪影響を及ぼすかもしれません。もちろん、高級なアンプですと、回路が安定するまで出力を遮断する回路が設けられています。しかし、この回路自体が音を濁すかもしれません。

その点では、自作アンプであれば安全回路も保護回路も自己責任で全部すっ飛ばすことができます。つまり、余計なものが何一つついていない良さがあります。保護回路が無くても、ポップノイズそのものを小さくすることで対処できるわけです。

また、今回は入力インピーダンスを見直すことで、無音時のヒスノイズが無くなりました。そのため、全くの無音の状態から、いきなり音が立ち上がってきます。これは、ゾクゾクする体験です。

矩形波増幅時の波形や、周波数特性のシミュレーションを見ても分かる通り、高域に僅かに歪みが乗ります。この歪のおかげでしょうか、音にキラキラ感が加わります。なかなか良くできたヘッドホンアンプです。

これでおしまい

今回作ったヘッドホンアンプは、以前作ったヘッドホンアンプから位相補償を廃しただけです。回路構成も定数もほとんど同じです。過去にはICを使ったり、オペアンプを使ったりしました。さらに、ディスクリートにしてからも、単電源アンプも作りました。そして、差動増幅二段+ダイアモンドバッファ+プッシュプルの構成に落ち着きました。このところは、回路構成はそのままに、回路定数を弄るしかやることが無くなってきました。ということで、現在のスタイルでのアンプ作成はおしまいにします。

現在、開発環境をLTSpiceからKiCADに移行しつつあります。これにより、PCBの製造発注ができます。そこで、今後は、ユニバーサル基板の利用は止め、PCB設計までやってみようと思っています。

不細工だけどシンプルで使いやすい入力インピーダンス最適化したヘッドホンアンプ
不細工だけどシンプルで使いやすい

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です